信楽町長野の古民家をおしゃれに改装し、土鍋×お米をテーマにオープンしたここ「土鍋ごはん&CAFE 睦庵(むつみあん)」。
お店の名前にもなっているオーナーの田中睦美さんに、お店への想いや信楽という場所についてもお伺いしてきました。
睦美さんはもともと甲賀市出身の方なんですか?
田中睦美さん(以下:睦美さん): そうですね、ここ信楽の出身で、主人は大学で大阪に出てましたが信楽出身で、結婚する前から結婚後もずっと信楽に住んでいます。
25歳で結婚して、25から10年間塾講師をやったりしていた後、39歳から特別支援講師の臨時講師の仕事をやらせてもらっていました。
その間にも10年程、土鍋を使ったお料理を教えてあげたいと年に数回程度でしたが、料理教室のようなことはずっとやっていましたね。
そして今年の4月5日に睦庵をオープンさせて頂きました。
日常的に土鍋を使ってもらえるよう提案していきたい
なぜ土鍋を使った睦庵という形態でオープンしたいと思われたのですか?
睦美さん: それはめっちゃ明確に考えがありました(笑)
私はもともと実家が信楽の神山(こうやま)で窯元をやっていて、小さい頃から近くに登り窯(のぼりがま)があったりそんな環境の中生まれ育ったのですが、私が18歳くらいの時に、父親が土鍋を作り始めたんですね。
それがめちゃくちゃ良い土鍋で、当時バブル時期で商品開発に多くの時間と費用をかけられた事もあって、結果本当に今見てもびっくりするくらいすごく良い土鍋が出来上がったんです。
ただ当時は消費者の方が、日常的に土鍋を使い続ける事ができなかったんですね。
それはテフロン加工のフライパン感覚で土鍋を使われるから使いづらく、日常的に気軽に利用する方法がなかなか伝わりづらかったんですね。
そこで定期的に土鍋を使ったお料理を提案する料理教室の場を設けて、ご紹介はさせて頂いてました。
ですがもっとハードルを下げて、目の前で土鍋を使って誰でも簡単に使える事を見てもらって「これだったら家でも炊けるやん!」と思って頂ければ、土鍋をお家で使ってもらえるんじゃないかなと考えたんです。
断言しますが、土鍋は炊飯器よりも絶対美味しいです!
そこで土鍋のお米と、土鍋ご飯に合うカレーや料理を振る舞う事をこだわりにしていますね。
私たちが一生懸命作ったお米を食べていただくことに面白さがある
実際にお米作りもご自身でやられてるんですよね?
睦美さん: はい、でも主人が98%やってくれているんですが(笑)
実家の家業でもあるお米作りは昔から染み付いてるので、信楽の土壌でのお米作りは祖父や父から気温や田植え時期などどうしたら美味しくなるか?というノウハウはデータを作って私も主人も受け継いでいます。
もともと父が土鍋を作ったのも、自分が作ったお米を最高に美味しく食べたいという想いから始まったので(笑)
このお店は母にも手伝ってもらってるんですが、お米作りしている母も直接お客さんたちに、こんなにお米って美味しいんだといってもらえる事が楽しくて仕方ないみたいですね(笑)
信楽焼の焼き物の里で出来た土鍋と、先祖代々紡いで来た地元のお米、私は2つとも絶対本物だと信じていて、この2つの本物を掛け合わせて食べて頂く事が最大のコンセプトとして提供させて頂いてます。
本当にお米美味しかったです!
睦美さん: ありがとうございます。
美味しいお米は全国たくさんあるけど、私たちが一生懸命作ったお米を食べていただくことに面白さがあるんじゃないかと思っています。
それとやっぱり食事はもちろんですが、焼き物の里にこられた方々に、信楽焼の食器を組み合わせた状態で楽しんでもらいたいという想いも強いですね。
信楽生まれの睦美さんから見て甲賀市のイメージ印象は?
睦美さん: んー、甲賀市といっても広いですもんね。
例えば同じ甲賀市の中でも土山と信楽では文化も違う部分も多かったりして、私はこのある意味バラバラさが集まっている土地柄が面白いなと感じています。
ただ広い分なかなか甲賀市を一体化させて文化や観光ルートの整備がまだまだ整っていないところもあるので、そこがこれからの大きな課題になるのかなと感じています。
「観光」で街を盛り上げていくのがこれからの道
信楽については?
睦美さん: 信楽は観光の観点から見るとすごくポテンシャルが高い街だと思いますよ。
これは父に教えてもらって私自身もそうなんですが、信楽でお店やご商売をやられてる方って地元のお客さんに来てもらいたいというよりは、他府県の方や海外の方を含めた信楽以外の人たちにわざわざ来てもらいたい、喜んでもらいたいという想いが強い街だと思いますね。
これは昔からずっと窯元さんが信楽外の方々とやり取りしてきた土壌があったからだと思います。
今後甲賀市や信楽がどんな街になっていって欲しいと思いますか?
睦美さん: 睦庵を始めた大きな理由の一つでもあるけど、特に信楽は、もしかすると日本の多くの地域がそうなのかもしれないけど、何かで生産を上げるとかという経済活動ではなく「観光」で街を盛り上げていくのがこれからの道だと思っています。
信楽であれば、遊びにこられた時に「楽しかったな」「焼き物って、焼き物の里ってこんなに良いんだ」と改めて感じてもらったり、興味を持ってもらいたいですね。
観光はもちろんですが、移住者の方が多いのも信楽の特徴で、例えば陶芸作家さんでいうと名古屋からこられた陶芸作家の方がいらっしゃるんですが、全国の焼き物産地に行ったけど、土や場所、技術もすぐ提供してもらえたり他にこんなところは他に無いって言うほど、信楽が一番やりやすかったとおっしゃってますしね。
陶芸家の方の多くは信楽以外の生まれの方ですし、そういう意味でも信楽はとてもオープンな街だと思いますよ。
睦庵はどういう人にどんな感じで利用してもらいたいですか?
睦美さん: んー、、そうですね、とにかくゆったりとした時間を過ごしてもらいたいですね。
ご飯食べるまでお米を炊く時間など20分程かかるのですが、その間も「急がない」「慌てない」ひと息つく時間も楽しみ味わってもらえれば嬉しいです。
土鍋で食べた方が絶対に美味しいと自信を持っていますし、みなさんにもそれは感じてもらえてるけれど、それでも日常では炊飯器が外せないのは、毎日何時に起きて、何時には出勤してという時間通りの生活を送って行かなければならないからだと思うんですね。
せめてここに来た時ぐらいは、土鍋でご飯が炊ける20分の間を楽しんでもらえるような、ホッとするような、、お店にしていけたら嬉しいですね。
結構私しゃべるの上手じゃなかった??(笑)
取材後そう冗談っぽく笑う睦美さんは、本当に明るくてバイタリティのある女性でした。
自分達で手がけたお米、土鍋という「本物」を堪能して欲しいという明確なテーマはもちろん、ゆっくりとした時間の流れをお店でも、できればお家でも作って味わっていってもらいたいという日々の暮らし方にも気づきを与えてくれるような素敵なお店。
ぜひお米やお料理はもちろん、睦美さん自身に会いに行ってみられてはいかがでしょうか。
撮影・取材/編集 早川慎一